〈写真:kenh14.vn〉
ベトナムでは旧正月を指す言葉として「Tết nhất(テト・ニャット)」という表現が広く用いられている。
この言葉には単なる年中行事を超え、人々が考える「正月の本質」が反映されている。
ベトナム語の「Tết」は「Tết Nguyên đán(テト・グエン・ダン)」の略称であり、「年の最初の朝」を意味する。
「Nguyên」は「最初」、「đán」は「朝」を指す語である。一方、「nhất」は「一」や「最上」を意味する。
両語が結びついた「Tết nhất」は、本来「一年の始まり」を示す言葉であったが、日常生活の中で使用される過程において、「最も重要な正月」という意味合いを帯びるようになったと考えられている。
言語は社会の価値観を反映して変化する。「nhất」が単なる順序を示す語から「最高」「最も大切」といった評価的意味を含むようになった背景には、正月が人々にとって特別な時間であるという文化的認識がある。
近年、グローバル化の進展により、多くのベトナム人が都市部や海外で旧正月を迎えるようになった。
海外では旧暦の元日が通常の平日として過ぎることも多く、花火や伝統的な行事を経験する機会は限られる。
その一方で、こうした環境の違いを通じて、家族と過ごす正月の意味を改めて認識する人も少なくない。
幼少期に家族とともに迎えた正月の記憶は、多くの場合、個別の出来事として明確に残っていなくとも、生活感覚として共有されている。
祖先祭壇への供物、家族全員が集まる食卓、年長者から子どもへ渡されるお年玉などの習慣は、世代を超えて受け継がれてきた文化的体験である。
こうした原体験が、人々にとって「理想的な正月」の基準となっていると指摘される。
年末が近づくと、国内外で働く多くの人々が帰省を試みる。
交通渋滞や航空券価格の高騰といった負担が生じるにもかかわらず、帰郷の動きが毎年繰り返されるのは、正月が単なる休暇ではなく、家族との再会を目的とした社会的儀式として位置付けられているためである。
ベトナム社会において「家」は単なる居住空間ではない。そこには祖先への敬意や家族の歴史、共同体としての記憶が重ねられている。
正月に帰省する行為は、生活の原点や自身のルーツを確認する文化的実践ともいえる。
「Tết nhất」という言葉は「一年の始まり」を意味する語から出発し、やがて「最も大切な時間」を象徴する表現へと変化してきた。
現代においても、正月の価値は花火や料理の豪華さだけで測られるものではない。
家族と同じ時間を共有することこそが、多くの人々にとって最も重要な正月のかたちと認識され続けている。





































