<写真:baotuyenquang.com.vn>
ベトナム最北端の山岳地帯に位置するハザン省のロロチャイ村は、かつて人里離れた静かな小村であった。しかし、この10年余りで多くの観光客が訪れる活気ある観光地へと変貌し、現在では「世界で最も優れた観光村」の1つとして知られるようになっている。この変化の背景には、日本人・小倉氏の存在がある。
小倉氏が初めてベトナムを訪れたのは約30年前、1995年のことである。観光客としてホーチミン市やカントー市を訪れた後、1999年にはハノイ市を経て北西部の山岳地帯を巡った。そこで出会った少数民族の文化や壮大な自然景観に深く魅了されたという。
それ以降、小倉氏はほぼ毎年のようにこの地域を訪れるようになった。訪問のたびに写真を撮影し、被写体となった住民へ郵送するなど交流を続けた。やがて、ある少女からベトナム語の手紙を受け取ったことをきっかけに、独学で5年間ベトナム語を学ぶことになった。
転機となったのは2013年である。56歳で早期退職した小倉氏は、それまで以上に長い時間をベトナムで過ごすようになった。翌2014年、ハザン省ドンバン地区を訪れた際に、ルンクー旗塔の近くにあるロロ族の村、ロロチャイと出会う。
土壁と陰陽瓦の屋根を持つ伝統的な「チン・トゥオン住宅」が残る美しい村であり、その景観と文化に強く惹かれた。一方で、近代化の進展により、こうした伝統家屋がコンクリート住宅へと建て替えられてしまう可能性を懸念したという。
そこで小倉氏は、伝統家屋と地域文化を生かした観光モデルを村に導入することを考えた。村人ディウ・ジー・チエン氏の家を拠点とし、約2億ドン(約120万円)を私費で提供してカフェを開設した。
さらにトイレの整備や景観の改善にも取り組み、ハノイ市からボランティアを招いて接客やコーヒーの淹れ方を指導した。こうして誕生した「カフェ・クックバック(最北カフェ)」は観光客の人気を集め、村に新たな人の流れを生み出すことになった。
この成功をきっかけに、村の住民たちも徐々に観光業へ参入するようになった。ホームステイや土産物店が次々と開かれ、伝統家屋は観光資源としての価値が再認識されるようになった。
その結果、家屋の保存が進み、村の生活水準も向上した。カフェの収入によってチエン氏の子どもたちは大学へ進学することができるようになり、教育の機会も広がった。
小倉氏の活動はロロチャイ村にとどまらない。2025年にはハザン省ドンバンにあるモン族の村で、地元政府と協力しながら伝統家屋6棟の修復を支援した。さらに1棟につき1000万ドン(約6万円)を自費で提供し、文化遺産の保存に貢献している。
小倉氏が目指しているのは、少数民族の村が自然や生活文化を生かした「生きた博物館」として持続的に発展することであり、若者たちが都市へ出稼ぎに行かずとも、故郷で生計を立てられる社会の実現である。
ロロチャイ村の住民によれば、かつて無名で貧しかったこの村は、小倉氏の支援をきっかけに大きく変わった。伝統家屋は守られ、観光による新たな収入源が生まれ、子どもたちは高等教育を受ける機会を得るようになった。
日本人1人の善意と行動が、辺境の小さな村に持続可能な観光の可能性をもたらした。




































